私たちの宗門では、2022年2月24日のロシアのウクライナ侵攻に対し、「我々は、被爆国の市民として、生命を慈しむ仏教徒として、世の安穏を願う念仏者として、この武力侵攻を非難し、自己正当化をくりかえす権力者の愚かさを批判し、歴史をかえりみつつ、この戦争の一刻も早い終結を願う」という宗会決議が採択されました(2022年3月4日)。しかしいま、私たちは、再び同じことばを、悲痛な思いで、別の武力紛争に対して投げかけねばなりません。 2023年10月7日、武装組織ハマスのミサイル弾攻撃によって始まったイスラエルとハマスの軍事衝突により、特にガザ地区は地獄の様相を呈しています。この紛争の残酷さと理不尽さを最も明瞭に表しているのは、イスラエルによるガザ地区の病院への攻撃です。非武装の市民の命を盾に取る武装組織と、非武装の市民の命が巻き添えになることもやむなしとする世界有数の強大な軍隊の衝突がもたらすものは、多くの一般市民の、特に子どもや女性の犠牲にほかなりません。「ガザでは、死者は1万1千人を超えた。そのうち、子どもの死者は11月11日時点で4割を超す4506人に上る」と報道されています。11月6日の会見での「ガザは子どもの墓場になりつつある」というグテーレス国連事務総長の言葉が胸に突き刺さります。 宗祖親鸞聖人の時代も戦乱の時代でした。聖人はその時代を直視し、最も苦しい立場にある人々を「いし、かはら、つぶてのごとくなるわれら」として、共に生き抜かれました。自分だけの安穏を願う生き方にとどまることなく、共にお念仏で結ばれた「われら」という言葉に込められた聖人の思いに深く耳を傾けたいと思います。今、私たちは、親鸞聖人のみ教えを依りどころとすることはもちろん、苦しみ悲しむ人々と共に歩まれたその生き方に学ぶことが必要です。 戦争に勝者はありません。私たちは、四十八願で「地獄、餓鬼、畜生」などの苦しみのない世界を願われた阿弥陀如来のお心に導かれ、自他共に心豊かに生きることのできる世の安穏を願う念仏者として、このたびの軍事衝突で苦しむ全ての人々に目を向け、即時の停戦と早期の終結を願います。
2023年11月17日浄土真宗本願寺派総長 池田 行信